【授業のひとコマ】クイック翻訳発問


今日は英語の先生向けに、私が中学生に行っている授業の一風景をご紹介します。

私が教室で中学生に英語を教えていて最も難しいと感じるのは、文法や語法の内容を理解してもらうことではなく、「いかにして習ったことを定着させるのか」ということを理解してもらうことです。言語を使用できるレベルまでに習熟させるには、説明を聞いて(または、読んで)理解したらそれで満足ということではいけません。

音声によるコミュニケーション、すなわち「聞く」、「話す」は迅速になされなければなりません。例えば、英語を聞いてから理解するのに毎回5秒もかかっていたら、誰も相手にしてくれなくなります。

英語を勉強し始めてまもない初学者は、英文を聞いて(または、見て)理解するまでに特に時間がかかります。そこで、私が中学生に口をすっぱくして言ってるのが「理解するまでの時間を短くする努力をしなさい」ということです。そのため、授業では次のようなことをやっています。

 

クイック翻訳発問

Grammar-Translation Method(文法訳読法)といわれる教授法があります。文法や語彙の説明をベースに、英語を日本語に翻訳していく方法で、時に日本の英語教育の害悪はこの教授法にあるとされることがあります。しかし、運用次第では、この教授法もかなり使えるものだと思っています。ここでは、私が教室で行っている文法訳読法の活用法(仮に「クイック翻訳発問」とでも呼ぶことにします)を紹介します。

 

5秒以内で

私の授業で生徒に施す翻訳訓練は、発問という形で行います。この発問段階でもっとも気をつけることのひとつが「スピーディーに行う」ということです。教室にいる生徒全員にできるだけ緊張感を持ってもらいたいと思いもあるのですが、先ほど述べたように、理解に要する時間を限りなく短くすることが大切だからです。具体的には「5秒以内に答える」という制限時間を設けています。これは、私が発問をして生徒に当てた瞬間から5秒以内で答えをつぶやき始めるという意味で、5秒以内にすべて答えよ、という意味ではありません。

さらに誤解のないように言っておくと、先ほど述べた「実際の音声コミュニケーションで毎回理解するのに5秒かかっていたようでは誰も相手にしてくれない」の5秒とも意味がことなります。ここでいう5秒とは、教室で英語教師が生徒をコントロールする目安時間としての5秒です。

 

事前の心構えをさせる

この「5秒で英語を日本語にする」という作業は、英語初学者にとってはかなりハードルが高く、突然こうした発問をしてもなかなかできません。ですので、この方法をやる場合に「今からそうした発問をしていきますよ」と事前に通知しておく必要があります。

指示を受けた生徒は「自分が当たるのでは??」とある程度の緊張感を持って、これから発問がなされるであろう英文に急いで目を通し始めます(ちなみに、私の授業では単語の意味を調べてくる予習が前提となっています)。この準備をさせる時間は30秒〜1分程度で十分です。

意識を目一杯高めた状態でようやく発問に移ります。

 

発問はリピーティングの後で

意識が高まった後で、全員で対象となる英文を音読します。教師の発音の後で生徒が発音をするいわゆる「リピーティング」を行います。英文が長い場合は切りますが、たいていは一文そのままリピーティングさせます。

翻訳の前にリピーティングをさせる背景に、「文字情報のみからでなく音声情報を経て英文を理解してもらいたい」という意図があります。リーディングの上級者になると、頭の中で音声化する作業を省くことがありますが、そこに到達するには、音声情報を経て英文を迅速に理解できるようになる能力が不可欠です。原則的に、英文を理解するスピードを高める訓練は音声ベースで考えるようにしています。

 

英文の基本構造を考える

英語初学者は日本語と英語の構造の違いに慣れていないことが多いです。そこで、私がクイック翻訳発問を行う場合、生徒に英語の構造を意識させます。具体的には「まえ、うしろ、まんなか」と声高々に叫びながらこの翻訳を促しています。この「まえ、うしろ、まんなか」が何であるかは以下の説明を読んでいただければわかると思います。

 

私が初学者に英文の基本構造を教える場合、次のように教えています。

 

[主語]+[動詞(+α)]+(場所)(時間)

 

+αとは目的語とか補語とかそういったものがくるということを初学者のために単純化した表記です。場所や時間などの副詞表現はあったりなかったりするので()の中に入れてあります。これを日本語の語順に直してみると以下のようになります。

 

1[主語] 2(場所)(時間) 3[動詞+α]

 

元の英文構造にこの番号を当てはめてみると次のようになります。

 

1[主語] 3[動詞(+α)] 2(場所)(時間)

 

つまり…

 

1「まえ(主語)」  2「うしろ(場所や時間などの副詞表現)」  3「まんなか(動詞以下の述語)」

 

となります。英文に当てはめてみると

 

I had a very good time last night.

I (私は) / had a very good time(とても楽しかった)/last night.(昨夜)

私は(まえ)/ 昨夜(うしろ)/ とても楽しかった。(まんなか)

 

という具合になります。すべての英語に当てはまるわけではありませんが、中学で習う単文のほとんどはこの単純なルールで翻訳できます。ある程度英語を習っている人なら当たり前にできることですが、中学生などの初学者はなかなかこの作業が自動化できません。明示的に指示を出しながら意識を高めてトレーニングをさせていくことが重要です。こうした理由で、私は授業で「まえ、うしろ、まんなか」というのを合言葉のように繰り返して言っています。

 

時間オーバーしたら

私の授業では単語の予習を必須としていますが、中学生だときちんと準備をしてこない生徒もいます。または、ぼーっとしていたり、眠ってしまう[眠そうな]生徒もいます。そういう生徒に翻訳課題を当てた場合、たいてい5秒を過ぎてしまいます。こうしたことが蔓延してしまうと、そもそも緊張感を持って取り組むことが難しくなります。これを防ぐために次のようなルールを敷いています。

 

5秒をオーバーした場合、隣人に解答権が移動。パスした生徒は数問先にまた新たな翻訳課題が突然課される。

 

中学生といえども、友人を巻き込んでしまうことには気が引けるようで、さすがに何度も隣人に迷惑をかけるわけにはいきません。一度解答権を失って隣人に迷惑をかけた生徒は、たいていの場合2回目は気を引き締めて臨みます。それでも5秒ルールが厳しい生徒には、最初の主語の部分(「私は」)を教師がヒントとして与えてやると、翻訳課題自体がかなり優しいものになります。

 

まとめ

授業でクイック翻訳発問を行うメリットは一回の授業時間内で多くの生徒にトレーニングを施すことができるということです。また、ある程度の緊張感を保った授業ができるようになります。

しかし、ここで大事なことがあります。上で述べた「5秒以内」や「時間オーバー」などのルールは決して「厳しすぎるルールであってはいけない」ということです。こうしたルールはあくまでも授業中の運用のためのルールです。ルールが厳しすぎると生徒にとって過度のストレスとなります。時には多少ゆるくしても構いません。生徒が英語教師に対してアンチ感情を抱いてしまうようになると、何を教えても意味がなくなります。特に人数の多い教室では、強いpeer pressure(同調圧力)があります。大勢の前で恥をかくことを極端に恐れているわけです。恥の感情を植え付けたり、自尊心を傷つけすぎてしまうことは、リスクとして避けなければなりません。こうした教室での圧力をいかに軽減してあげるかが、英語教師の腕の見せ所だと思っています。教師は、学習者をしっかりと観察し臨機応変に対応しなければなりません。

ここで紹介した発問方法は他の類の発問にも応用可能です。英語→日本語の翻訳課題は中学生などの英語初学者には取り組み安いため、こうした発問ルールと相性が良いということで紹介しました。


takeondo
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都内の私立学校に勤務する英語教師(英語科教諭)。学生時代に英語音声に魅了され、英語教師の道へ。とりわけ関心があるのは、英語のプロソディ(超分節音的側面)とよばれるリズム、イントネーションなど。英語朗読、英語落語にも興味があります。 Certificate of Proficiency in the Phonetics of English 2nd Class 趣味:囲碁(四段)、ランニング(ハーフ1時間30分/フル3時間40分)

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